おやすみ
伊織
娘には愛を受ける権利がある
娘には、すきなときにだっこをしてもらう権利がある
父親の記憶のない娘を不憫に思い
祖母は惜しみなく愛を捧げた
自分の娘に届かなかった愛もセットにして
両腕でかかえきれないほどの愛を捧げた
ところが娘にとって親といえば母親であり
母が仕事から帰ると満面の笑みで
「おかえり」と「抱っこ!」を繰り出すのであった
母はとりあえず娘を抱くが
体が
ちいさい
母は知っていた。
誰かを抱くためには誰かに抱かれる必要がある
母は娘が寝ると携帯電話を握り締め
常に話し中のいのちの電話に一時間リダイヤルしたり
自分のブログのアクセス解析を細大漏らさず確認したり
書いてある通りになったためしのない占いを何度も繰り返したり
布団を必要以上に体に巻き付けたりする
ごめんね。
母さん、あなたを無条件で愛する余力がないの。
ごめんね。
生まれてくれたのに、愛されることしか考えられなくて、
ごめんね。
隣でうなされるようにうめく娘を
母は目を閉じて抱っこする
娘は
寝返りを打った