おやすみ
伊織

娘には愛を受ける権利がある
娘には、すきなときにだっこをしてもらう権利がある


父親の記憶のない娘を不憫に思い
祖母は惜しみなく愛を捧げた
自分の娘に届かなかった愛もセットにして
両腕でかかえきれないほどの愛を捧げた


ところが娘にとって親といえば母親であり
母が仕事から帰ると満面の笑みで
「おかえり」と「抱っこ!」を繰り出すのであった
母はとりあえず娘を抱くが
体が
ちいさい


母は知っていた。
誰かを抱くためには誰かに抱かれる必要がある



母は娘が寝ると携帯電話を握り締め
常に話し中のいのちの電話に一時間リダイヤルしたり
自分のブログのアクセス解析を細大漏らさず確認したり
書いてある通りになったためしのない占いを何度も繰り返したり
布団を必要以上に体に巻き付けたりする


   ごめんね。
   母さん、あなたを無条件で愛する余力がないの。
   ごめんね。
   生まれてくれたのに、愛されることしか考えられなくて、
   ごめんね。


隣でうなされるようにうめく娘を
母は目を閉じて抱っこする
娘は
寝返りを打った


自由詩 おやすみ Copyright 伊織 2010-01-05 01:18:08
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