そらいろ
石黒あきこ

  どこにいますか、とうめいないま
  なにいろですか、ちらばるかぜ

編まれた雲のひとすじと砕いた虹の一音まで
まきとる古ぼけた糸車
つみあげる小さなてのひら
秘めたつぼみの膜をはぎとって
縫い上げたやわらかな笑み
小鳥の柄を選んでしまったのですけれど
林檎の花がかたばみを知るとき
小鳥の柄は飛び立ちます
やさしく見送ったなら
まるい封筒にことばを仕舞い
つづり箱のふたを閉じましょう
はさみを浸す水、お皿に忘れないでね
異国からとどいた葉書に寄り添い漂う珈琲が
少しばかり濃すぎたものですから
ちぎった星屑を沈めました
  とどきますか、こぬれのこえ
  つづいていますか、はじまりのすず

インクを溶いた冷たい水
ゆるやかなやまと文字に流し込んだら
端から千切って子蜘蛛にかえて
奇数頁と偶数頁のすきまを探します
夜明け前がだいだい色になぞられるとき
こぶたの眠りから香水瓶へと仕掛けたあみに
飴玉がみっつ捕らわれました

五月と六月
の縫い目がほどけそうだから
こゆびとくすりゆび
の結び目に涙がしみこむのだけど
こいびとたち
は手のつなぎ目を離したくなくて
  きこえますか、(…
  きこえていますか、(…

やまない渦が世界地図をついばんで
とぎれない波が時計のゆくえをむしばんで



       詩と思想2009年4月号読者投稿欄掲載


自由詩 そらいろ Copyright 石黒あきこ 2010-01-04 23:18:10
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