お正月の歌
atsuchan69

縮絨された暦に秘めた
敏く、哀愁を帯びた紅紫の日々と
愚かなる人々の美しくも艶やかな罪の数々
その淡い影と華やかな彩りに埋もれ

 古びた床へと無数の疵を残して

錦鯉の泳ぐ池のある庭を望む
広々とした客間へとつづく廊下には
紅い絨毯を敷き詰めた、偽りさえ夢に染まる
血族の邪まな営みをあからさまに曝して

それでも指折り数え、
訪れたハレの日の朝――
総ての咎を覆う、清楚なる風に乗って
何処で毬突きの少女が口ずさむ

 「いくらと数の子、どっち好き?
 蟹と伊勢海老、どっち好き?

少年のうしろに立つのは、
黒い結い髪の意地悪な老女中
――坊ちゃん、コレなんだすか?
夕べ、敷布団の下に隠した
いやらしいグラビアを手にかざしたが、

 少年は懸命に一切の邪を祓った

裸の、絡み合う二体の
青い眼の獣のごとき男と女・・・・
総天然色で薄紙に写された
露出した陰部の凸と凹。

 あ、はん。
 とまれ愛でたし――
 今日は元日、
 ハレの日なのだから

障子を閉ざして静かに漂う、
燃え立つ火鉢の輝ける炭の匂い
やがて父上と母上が上座に座って
おせちの御重も運ばれて

 御膳に載った、
 金箔を散らした雑煮
 敷き紙と尾飾りのある焼鯛
 屠られた家禽の肉や海の幸、
 芋と蒟蒻と筍の煮しめ

 黒豆と伊達巻ください
 栗きんとん、ください
 鰊の昆布巻きください
 紅白の蒲鉾ください

――坊ちゃん。

 お屠蘇を注ぎに
 年の近いお女中の娘が傍に来て
――ええと、後で
 あとで羽根突きしましょう・・・・

紋付袴の父上が大声で笑い、
母上も妙に嘘っぽく優雅に笑って
振袖の姉さんも、妹も馬鹿みたいに笑って
小指のない庭番の誠爺さんも
大酒を呑んで誰よりも下品に笑って

 結い髪の老女中まで笑って

羽織の袖に隠していたグラビアを
僕はおもむろに取りだして拡げると
畳の上でそれを紙飛行機にして、
真向かいの老女中のお尻へ向けて飛ばした

 てん、てん、てん。

 「いくらと数の子、どっち好き?
 蟹と伊勢海老、どっち好き?
 ――いくらも数の子、みんな好き!
 蟹も伊勢海老、みんな好き!

そのあと、僕らは土蔵のなかで
しくじっては悪戯に墨を塗った顔のまま
細かに震える唇と唇で口吸いをしたり
いやらしい、あのグラビアごっこを続けた

 そしてふたり。
 いくども裸で抱き合っては
 そのことが、
 けして罪でないことを・・・・

幼いながらも、互いに喘ぐ声と肌の温みとで知った








自由詩 お正月の歌 Copyright atsuchan69 2010-01-04 17:42:19
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