連続性に恐れをなして
真島正人

恋人よ
僕と君は
不確かな
連続性に恐れをなして
足の指先まで震えているのだ

髪の柔らかい幼子が
高い峠から降りてきて
彼の足元に
夕日の影が
せせら笑う

ビルの切れ端に
描きかけの画用紙がにじんで
僕と君も描きかけになる
君は読んだだろうか
僕がこっそりと書いた
君への詩を
書きかけのまま
ノートの隅で死んでいる

書きかけの詩は
黒人霊歌
黒人霊歌の真似事で
僕は本当の言葉を持たないし
君はのどが渇きすぎてそれどころじゃない

「ねぇ
聴いたかい
昨日
連続して並んだ家の
端から二番目の
野口さんの家で
小さな子犬が産まれたんだ
生まれたばかりなのに
黒い目をしていて
なんだか声を出して鳴くんだ
その上その犬は
何人目かの
連続して生まれた犬なんだ」

耳を済ませれば
ささやき声が聞こえるのだが
そんな些細なことに
何も問題はなく
僕は今日
雨が降ったら
緩衝材を買いに行くだろう
甥っ子が
悪戯をして
壁を少し壊してしまった
そのことが
頭から離れないんだ

恋人よ
君の足幅は
何インチ
僕の足幅は27だが
僕の背丈はそれほど高くは無いし
君につりあう年齢でもない
僕たちの釣り上げた
魚は
どんな匂いを立てるのだろうか
その手から
その指から
過疎化した村を生んでくれまるで
卵でも植え付けるように僕は
迷いながら君を抱くだろう
昨日
立てあがったばかりの
ガラス張りのビルで



昨日僕は
吐き気がした
僕の髪は
まだら模様で
臭い
まるで
犬の子供みたいだ
生まれたての粘膜の
匂いがする

一方で君は
馬が大好きで
鬣を触ると
「ホウホウ」
と鳴く
僕はその鳴き声に
呼ばれてしまった
君を愛しているんだ
正しいことを探して

姿勢を変えれば
世界が殉教してくれる
昨日君の指先で
現代史が死んだし
僕はベリオの歌を
食べてしまった
よく租借して
ペッと吐き出したら
品評会をしたんだ
君は言っていたね
「噛み砕きすぎてよくわからない形になっちゃった」


僕は昨日吐き気がした
冷暖房器具は僕を助けなかった
いつも遅れていると
わかることがある
僕は頭の中に
何も飼っていない



淫らな行いを
あまりするなと
現代史の教師が言った
生徒たちは
縮こまって返事をした
その瞬間にはじけるものがあった

恋人のはにかみは
理科実験室で憤死していた
僕はビーカーに砂を詰めていた
君よりももっと
深いことを知りたかった

僕たちは帰り
君は取り残され
ときどきむなしそうに髪をいじった
昔話の中の
人物のように
君は小さくなり
ビーカーの中に入ってしまった

僕たちは翌日
何も発見しなかったのだが
理科実験室は
花の匂いがした
肩で息をした教師は
僕の長い髪をなでて
いろんなことを話した



肉をもう食らうな
僕を許すと思うな
僕は解放する
すべての許しを
僕は僕を許すことが出来る



僕が僕の形でいられることは
ありがたいことだ
高いところから
爪を持ってやってくる連中
彼らの顔に
反吐を塗りつけてやれ



連続した
運動
気体の
昇華
小学校は
行進をしている



机の上に書いておいた
8000字の脚本
君はそれを
恋文と間違えた
僕たちはいつも遅れている
始発の列車に
僕は発射した
明るい未来を



連続性の恐怖
性が
君を
脅かすとき
まるで玉突き事故のような
恣意性
君が揺さぶった
あの雲のように
今日の空は
震えている


自由詩 連続性に恐れをなして Copyright 真島正人 2010-01-02 01:38:37
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