この冬最初に雪を見たのは新年だった
あ。
握り締めることなんて出来ないってわかってるのに
風に翻弄されて舞い落ちる粉雪をつかまえて
その結晶を手のひらに刻み付けたいと思った
この冬最初に降る雪を見たのは
帰省先である少し北の街だった
坂をのぼるわたしの吐息は白く柔らかく広がり
かさかさの頬は薄い紅色をしていた
普段はひっそりと静まり返った墓地は
各々が艶やかな花で飾りつけられており
温度を持たぬ灰色の石は舞う雪を重ね
そろそろと結晶の形をいびつに溶かしてゆく
ただひたすらに優しかった眠る祖父よ
わたしと瓜二つの顔だった眠る祖母よ
最後に一緒に歩いたのはこんな日だった
今は潰れた近くの小さな商店で
普段余り食べることがない少し高いお菓子を
子どもらしく駄々をこねて買ってもらった
お正月のささやかな贅沢だった
手を合わせる爪の先に雪は止まり溶ける
供えた南天の実を包むように
羽織った黒いコートの色を流すように
とめどなく空から降り落ちてくる
合わせていた手をそっと離すと
まるで待ち構えていたかのように
ひとひらの結晶が滑り込み
手のひらに刻み込むことは勿論なく
すぐに水滴になって消えた