こころの病院
服部 剛
扁桃腺が腫れて、高熱が出て
水もろくに飲みこめなかったので
仕事を休んで総合病院に行った
耳鼻咽喉科の待合室で
中年の美しい女が頭を抑え
看護婦さんに背をさすられながら
洗面器に、嘔吐していた
(世の中には大変な患者さんが
いるんだなぁ・・・ )
点滴を打っている
自分の姿を棚に上げて、僕は思った。
受付のロビーには
列を成す病人達であふれ返り
(世の中は、大層病んで
いるんだなぁ・・・ )
列に混じりながらも、僕は思った。
「目に見える、効果のある、医療」を求めて
人々のごった返す年の瀬の病院で
点滴の針を腕に射して、突っ立つ僕はふいに
小さい戦争よりも自殺者の多いこの国の
「目に見えない、こころの病院」について、考えていた。