星に名前がついているわけ
小池房枝
星は知らないという
星にひとが名づけた名前があること
ではひとは知っているのだろうか
星にひとが名づけた名前があること
星に名前がついているわけ
幾通りもの答えがあっていい
たとえば
星に名前をつけたひとはきっと淋しかったのだと
そんな考え方でもいい
淋しくなかったひとなんていないだろうから
それはそれで間違いではないだろう
ただずいぶんと昔から/昔には
ひとは星に名前が必要だったのだということ
ひとつには
時刻と季節を知るために
もうひとつには
遠くまで行くために
見渡す限りの大海原あるいは
見渡す限りの砂の海を渡るためには
星は大切な道しるべだったし
島影が見えなくても海が渡れるようになったら
それはもう地球上どこにだって行けるっていうことだ
波とうねりを計り
星と太陽を読み取り
風を捉えて船を走らせることができるなら
どこまででも行けるし
帰ってだって来られる
砂漠を旅する者にとっては
大切な暇つぶしでもあっただろう星物語
季節の教え
創世の証
星が知らないのではなく
わたしたちが忘れてしまっている
星に名前がついているわけ
星に名前をつけた頃のわたしたちのこと
語り継がれてきた星々の名前
繰り返し
一人一人が何度でも
星に名前をつけていいこと
彼女の誕生日の頃の一番星とか
飲み会終電の明星とかね
そして近い未来にはもう一度
地球の外へ船を出すために必要になる
星の名前
宇宙という海が
生命の砂漠であろうとなかろうと
憧れを定め
そして一度は帰ってくるために