ゆうううつ
たもつ
どううぶつえんの檻の前で親友は盤を取り出し
飛車角落ちで良い、と言う
親友の温かい手から飛車と角を受け取り
どううぶつの檻に投げる
どううぶつは隅でうずくまったまま見向きもしない
飛車も角も生肉ではなかった
並べる前にどううぶつの檻の前で記念写真をとることになり
近くにいた飼育係にシャッターを押してもらう
はいチーズ、と飼育係は決して言わなかったが
自分の父親と母親の名前を教えてくれた
良い名前ですね、と褒めると
優しい両親でした
そう笑って、どううぶつの飼育に戻っていった
並べているとどううぶつの欠点ばかりが目に付いて
なるべく汚い悪口を言いたい衝動にかられる
親友はそんな僕に、銀もいらないから、と
またその温かい手で握らせる
いったいいくつ並べたのか、もはや数え切れない
このまま並べ続けられればいい
そのように思ったのは僕だけではないはずだ
けれど終わって欲しくないことにはやがて終わりがくるものだし
飼育係の両親の良い名前ももう思い出せない
ポケットの中で親友の銀が音をたてた
いつも何かが多いくせに
足りない気持ちでいっぱいになる