△6℃
atsuchan69


 凍える戒厳令下の冬。

圧倒的な武力によって民を統治する狂信者が叫ぶ、
人民に必要なのは日常的な流血と惨事である
もはやパンの配給や馬鹿げた奇跡の捏造などではない
果てしなくつづく粛清による独裁政治なのだ、と

もはや劣性の種を生かす余裕は微塵もなく、
凄まじく全地に襲い掛かった自然の猛威に対し
未来は、けして少女が夢見るような奇麗事などではない
崇高で純粋なテロルによってしか
人々の営みを守ることは出来なかった

 そして劣性種の棲む街で――

白い降下物が太陽光発電パネルを覆い
尚、幾日もライフラインは途絶えたままだったが
荒果てた庭で拾いあつめた廃材を燃やし
少年は暗く虚ろな夜明けに鍋を煮る

小さな汚れた手で、粥をはこぶ
狭く散かった家の中には床に伏した女がいて
暗がりに覗いたその蒼い顔の女へと
少年は湯気の立つアルミの器を届けた

 どうか生きつづけて、母さん・・・・

みすぼらしい身なりの少年は
唯一ただ、それだけしか願わなかった

かつてフランス革命の時代、
ジャコバン党、ロベスピエールは清く純粋だった
近代では偉大なるスターリン
ブラウナウの孤高の狼ヒトラー、
みごと周囲の反対を押さえて原爆を投下し
憎むべき劣性種である日本人を
地獄の業火で三十万ばかし焼き払った
酷く近眼の男、トルーマン然り

それでも少年は青洟を垂らし
これから先、永くつづく氷河期の訪れに
懼れ、絶望することもなく
凍った土を穿っては、やたら逞しい芋蔓を引き抜いた

たぶん、歴史上の誰にも優って彼は純粋であり
厳しい未来を生きる人間のうちで最も誇るべき一人だった





自由詩 △6℃ Copyright atsuchan69 2009-12-29 22:37:54
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