そらごと
蠍星

はるかにはるかにむかし
誰かがひとみを伏せることをやめた
それから今までずっと
空は空
何百億のあこがれを吸い込んでなお
変わらないのか

ぼくらが自由になれないのは
ぢめんに足のうらをつけているから
かと云ってこの腕がつばさに変わったら
もう詩が書けやしないじゃないか!

(空はいくつあるの)
(ぼくらのひとみの数だけ)

ぼくは写真が撮れないから
夕焼けを見るたびにかなしんだ
ぼくが死んでも
ぼくが生きても
ぼくが死んでも
見上げたら空があるだろうか
あるんだろうな
だからひとのひとみはこんなにも澄むのだ

ぼくらが自由になれないのは
ぢめんに足のうらをつけているから
ぼくらが自由になれないのは
あたまの上に空があるから
ぼくらが自由になれないのは
ぼくらが自由になれないのは

(籠のなかに鳥がいて)
(かれはぼくよりも)
(空に近いところで生まれたって)

ぼくらは空の殻を
つき破れるようになったそうだ
銀色のちっぽけなえんぴつで
不安になるじゃあないか
空は変わらないのか
その向こうがわに
とめどないくらやみが充ちていると知って
生まれたての雛鳥たちは
羽ばたくことをもとめていられるのか

(うすぐもり)
(陽はきょうもななめ)
(空はなぜかぼくにだけよそよそしい)

何百億のあこがれにいま
空が耐えかねようとしている
なんて気のちがったことをつぶやいた
すべてぼくの気のせいならば
いいのに


自由詩 そらごと Copyright 蠍星 2009-12-26 22:13:03
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