12月24日、快晴。
瀬崎 虎彦
誕生日に僕は飛行機に乗って日本に帰る。
空港へ向かうバスの中で、あるいは飛行機の中ですでに具合が悪い気がしていたのだけれど、帰国してまもなく予定調和的に風邪をひく。
日本でクリスマスに恋人と会う約束が流れ、恋人と別れる。
いったいどこの誰がヨーロッパに寒波を到来させたのか、問い詰めたい。
で、それから一年くらい経ったんだけど、本当は分かっていた。そういうことが原因じゃなくて、僕たちは別れるはずだった。そして僕は、何人か恋人も出来たけれど、実際のところ誰にも恋をしていなかった。だから、恋人たちではなかった。
恋愛不可能体質。そんなことを思っている。もう誰も好きにならないのではなく、もう誰も好きになれないだけ、なんだ。けれど、その原因さえも僕には遠い出来事で、そのこと自体に感傷を憶えることもない。よく幼少期のトラウマで苦しむ人がいるのを理解できる気がする。本人は大人になって、頭の中で決着がついているはずなのに、可塑性の高い幼少期の精神のどこかにつけられた傷は(トラウマとはギリシア語で「傷」のことだ)、その人の生涯を捻じ曲げる。
話が大げさになった。ただ僕はそういうことを考えながら、またヨーロッパへ帰る飛行機に乗っている。シートベルトを締めてゆっくりと目を閉じる。どの瞬間でもいいから、早く眠りに落ちたいと心から願っている。
12月24日、快晴。