アルルカン洋菓子店
瀬崎 虎彦
あなたとわたし、わたしとあなた。
学校帰りにこうしてケーキを食べて、熱い紅茶を飲む。
秋に始まった授業で、あなたと知り合った。あなたが声をかけてきて、それからあなたは二時間喋りどおして、最後に連絡先を交換したときにはじめて知った、あなたの下の名前。
それから毎週、その授業のあとにあなたと会う。けれど、あまりこれといった話はしない。あなたは話をするけれど、似たような話が多いことに気がついている。それでも話し方が面白いのか、単純に話し上手なのか、聞いているわたしの注意は途切れることがないので、退屈はしない。
冬休みがやってきて、あなたに会えなくなる。
冬休みが終わっても、すぐに試験期間がやってきて、大学生の青春を腐らせるための長い、長い春休みがやってくる。だから、本当はもうあなたに会えなくなる日が近づいている。
あとになって振り返るんだ。たわいもない話をして過ごした時間が、あんなにも素敵だったのだと。
そしてわたしは、あなたがいなくても一人でその喫茶店に行く。あなたが面白いよ、とすすめてくれた『トリストラム・シャンディ』という本を読んで、紅茶を飲む。入り口のドアが開かれるたびに耳をそばだてながら。