蜃気楼の都市
服部 剛
遥かに遠い昔
すでに
バベルの塔は、崩壊していた
一九九九年
世界の中心に建っていた
N・Yのビルの幻は
黒煙の中に、姿を消した
二〇〇九年
未だに人々はバーチャル画面の中に
手にはふれ得ぬ、槍の姿の仮想の塔を、
建てている。
今にも剥がれ落ちそうな、紙の空に向かって
新たな時代の都市の中央には
人々が自由に語らえる
空中庭園があればいい
庭園の中央には
誰もが空と話せるような
祈りの空地があればいい
病を抱えた人々の
(わたし自身の)
胸の中央に
両手をそっと合わせるような
一つの空地があればいい
空中庭園の中央の
空地に
風の吹き抜ける時
古の詩人の魂は、訪れ
透けた瞳を開いて、視るだろう。
目に映る世界の裏側に
隠された
(もう一つの世界)が
蜃気楼の都市の姿で、浮かび上がるのを