知りすぎたひと
恋月 ぴの

お母さんのこと嫌いなの?

携帯電話でのやり取りを気にされたのか
調布駅の改札抜けたところで、由紀さんが心配そうに尋ねてきた

母のことかぁ、どうなんだろうねぇ
好きとか嫌いとかそんな物差しで母娘を計った覚え無い訳じゃないけど
あれは小学六年生の冬だったか
夫婦喧嘩した母からパパとママのどっちが好きかと問われ
うっかり「パパ!」と答えてしまったバツの悪さ忘れてはいない

何十年ぶりかで霜柱を見かけた

こんな朝はめったやたらと寒さに震え
おしゃべりな由紀さんさえも口数少なくなりがちで
吐く息で眉毛まで白くなってしまったのではと眼鏡越しに睨めっこしても

年の瀬の青空は葉の落ちた銀杏並木とそっけなく

「今年のイブはパン教室つながりでホルモン焼きパーティーかな?」

彼氏のいないイブって正気ではいられないほどに怖くて
好きでもない男子と一年前から予約入れたベッドのなかで過ごしたりしたけど
あの頃のエネルギー?って何処から沸いてきたんだろうね

一切合財を遠い昔と括ってみたくはなるものの

今年のお正月は早く帰って来いって母のことばが気障りで
あの時、「ママ!」って答えておけば良かったかなと今更ながらに考えてみる




自由詩 知りすぎたひと Copyright 恋月 ぴの 2009-12-22 18:15:06
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