兄が
妹に言う
(おまえは冷血動物だね)
ああ、そうですお兄さん
そんなことをあなたはいまさらいうんだね
あなたが温かい血の塊を全部貰ったから
わたしのものはもうとっくに冷えていた
それでもわたしはそれを全て奪い取って
なんにも残しはしなかった
だから
わたしたちの妹と弟は産まれなかったんですよ
そうなんですよ、お兄さん
( 残滓が浮いていた
わたしは一人息をしていた
鼻からも口からもあなたの残したものがはいりこんできた
目をかすかにあけると
気泡が眼球に張り付こうとした
むずかって動けば
おかあさんが少し苦しそうに鳴く )
お兄さん、
あなたの海はまっさらだったでしょう?
なんにもなかったから
あなたは
失うことを教えてくれなかったんだ
朝日が差し込んだときにわたしはこわばるからだをほどいて
隣で息を殺していたあなたを見た
それはどんなに眩しくても消えないわたしの兄で
一人しかいないわたしの兄で
触れてきた指に小さくあの海にいた頃を思い出した
なんにも知りたくないよ
お兄ちゃん、
あなたがわたしのなんなのかなんて
そんなことはもう
知りたくないよ
もう一度帰れるのなら
今度はいっしょに浮かんでいよう
産まれなかったわたしたちの妹と弟の為に
わたしたちが双子になって浮かんでいよう
そうして今度はわたしにもあたたかいものを注いで。
おんなじ体温になって
そうしてわたしの朝を孵して。
もう一度帰れるのなら
今度はいっしょに泣いてみよう
あの朝に失ってしまったものをぜんぶ
大きく息を吸い込んで取り返したい
なんにも知らない頃に戻ったらきっと
あなたはわたしの体温を冷たいだなんて、
言わないよ
ぜったい
ぜったい