からたちのくに風土記
楽恵
<風の記憶>
真夜中過ぎの嵐
窓辺で震えながら聞く荒れ狂う風の声
轟々という叫び
揺れる木々の一本一本に
神様が宿っている
翌朝は無残に散っていた
からたちの花
あめかぜの思い出
<土の記憶>
まだ幼児だった私に
話しかけてきた幼児の友が
優しく手渡した泥饅頭をつよく握り締めたあとの
指の隙間に残った
土の温もり
天空より降り注ぐ慈雨が
緑の大地にしみこむ様子を
母のさす赤い傘の下であきもせず見ていた
紫陽花の庭
雨宿りの枝で身を寄せあう濡れそぼった鳥たち
雲間から差し込む光と地上に落とされた影絵
あめつちの思い出
花ひらかせる蕾の一瞬の香りに似て
Google Earthには決して現せない
私のふるさと
からたちのくに
からたちの花
うたかたのいのち
風と土の記