霜月の末
オイタル

霜月の末
義母が逝きました
筋肉が次第に衰えていく病で
手足も口も思うにまかせないままの死でした
目だけがよく動いて
さびしさとうれしさを伝えていましたが

妻は静かに泣きました
義妹も義弟も、泣きました
老人たちが
置物のように並んで
はらはらと泣きました
お線香のけむりが
うす青く乱れていました

骨を納めた
冷たく静かな墓石の周りは
きれいに掃かれていて
小さく固まった時間の塊があちこちに
コツリコツリと
音を立てていました

明け方
灰色の空、藍色の雲
濃い木々のシルエットや家の壁の隙間から
小さくしかしはっきりと点るオレンジの街灯が見えたりすると
まるで言いそびれた義母の独り言のようです
空が明るくなるにつれて
街頭の明かりは
横切る車の銀のボディや闊歩する若い男たち女たち
まっすぐな歓楽の声の中に沈んでいきます
けれどもそれは
沈んでいるだけでおそらくそこにある
死んでいった人と生きている人の境目が
どの辺りにあるのか
はっきりとわかったものじゃない
影の薄い生者と影の濃い死者
だから 玄関の扉が
何の前触れもなくゆっくりと開いたり
私たちの体が知らぬ間に壁をすり抜けてしまったり
することだってあるわけだ
あるわけだ

などと言うと
義母が天井の後ろで
大好きなお刺身をしゃぶりながら
カラカラと笑っていたりするのです


自由詩 霜月の末 Copyright オイタル 2009-12-14 00:01:45
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