バス停
……とある蛙

僕は 今 丘の上に立って
不況のため売れ残りの目立つ
広大な分譲地内の家の屋根を見ている。
ちょうどあの時のように

あの時
僕は屋根の上に昇り
両足を抱えて
君の家の屋根を見ていた。

あの春、入学式へ行くバス停で
初めて君を見た僕は
君のことは知らないのに
君のかぁさんと仲良しだった。

君の家とは近所だが
電車で遠くの中学へ通っていた僕は
君と会わずに過ごしていた。
けれどもなぜか
君のかぁさんと仲良しこよし。

花ビラと砂埃舞う風の中
バス停で僕とお袋は
君と君のかぁさんを待っていた。

初めて君を見たときは
長いスカートを手で押さえ
母親同士の話が始まり、
僕の短い恋も始まった。

僕は不機嫌そうにあいさつした。

帰りも一緒だったのだが
やはり僕は不機嫌そうだった。
恥ずかしかっただけなのだ。

かぁさんとは似ても似つかぬ
君が一遍で好きになり。

しかもそのあと僕たちは
同じクラスで下校時、同じ
同じバスに乗り、話し出す。
君に何か用事があれば
いつも校門をうろついて(わっストーカーだ)
また、いつも同じバスに乗り
一緒に楽しく話しだす。

君の親友が一緒でもやはり近所で一緒に蛙。。

君の前ではいつも
僕は僕でなく
君の友達の僕を演じていた。

(そうさ演じていたんだ。)


二人で帰りに喫茶店にも行くし
銀座で上映していたイージーライダーを観に行った。
あの時は直接電話で約束したのに
家族が全員風邪をひいて行けないと断られ、
あとから僕のお袋から突然慰められ、
思わず息が止まってしまった。
その後は一緒にいけたけど、直後は
絶望感と気恥ずかしさで
本当に気が狂いそうになった。。

僕は勝手に恋人気分
好きだの一言も言わないで
でもそのままで幸せだった。

そして、三月土曜の午後、
何気なく校門前の芝生に座っている僕
君は一年上の先輩と帰るところで

突然のことに気が動転
僕は張り裂けそうな気分なのに
薄ら笑いを浮かべ
君を大声で冷やかしていた。

(なんてこったい。)
(何で笑っている?)
(何で笑っているんだ?)
(何で冷やかしている?)
(何で大声を出している。)

どうやって家に帰ったのか憶えていない。
(確かに悲しかったのだけど)
(確かに淋しかったのだけど)
(確かに

僕の恋は終わったのだ。)

君の親友の女の子から
付き合ってほしいと言われた時
僕は何となくはっきり答えずに
そのまま黙殺した。

僕の高校時代の恋は終わったのだ。

ぼくはもう、この時以来
屋根の上に昇って両足を抱えて
君の家の屋根を見ることは無くなった。
もう二度と

君は今
ひょっとしたら孫と一緒に遊んでいるかも知れないけれど
僕はひょんなことから思い出した。
君のことを

ホントだよ。


自由詩 バス停 Copyright ……とある蛙 2009-12-13 15:01:43
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