遠回りした夜
砂木

五時に会社を出て車で演奏会場に向かう
吹奏音楽団に入った甥のデビュー
トロンボーン奏者として舞台に立つのだ
まだ高校生だし来春からは社会人
でも誰も止める事ができなかったデビュー
ひとめ見たかった

右折すると会場に行ける
赤信号を右よりで待つと後ろから救急車がきた
私の車がふさいでいた
どうしようもないので左折の方へ行き左折
救急車が赤信号を通り過ぎる
少し遠回りをしたが 演奏会場に着いた
チケットをわたし席について演奏を聞く
十代から五十代までいる社会人の楽団
聞く人々の年代も幅広くたくさんいる

大人達に交じって真剣に演奏する甥
クリスマスソングなどに湧く会場で
先ほどの救急車のことを思い出す
数年前 私も乗っていた
あの時 手を握って暖めてくれた
救急隊員の真剣な顔
呼吸が楽になると 笑顔になった顔

余興のプレゼントの抽選がはじまり
私の番号は呼ばれない
少し 借りを返せたかな
今ここで楽しんでいる以上の幸運は
身に余る幸せなのだろう
デビューすることなく消えた日々

アンコールでは たたみ掛けるように
軽快な曲が会場を盛り上げて
観客は拍手を惜しみなく送った
来年も是非いらしてくださいと挨拶がある
楽団員が舞台から降りていく
観客も家路につく

サイレンと演奏が 赤信号を走った夜
歌っているのは誰だろう




自由詩 遠回りした夜 Copyright 砂木 2009-12-13 11:07:11
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