「立て膝であの日たくさんの宇宙船がスクラップにされるのを見てました」
思い出は、グレイと紫と青のまじった夕焼け。鉄条網の向こうには、カブトムシの死骸のような宇宙船たちがにぶく銀で光っていた。あれは、ゲンジツの記憶だった?
「透明な鏡にマーマレード塗る とってもとってもわたしはきれい!」
女の子がいた。名前は?(ミカ。)とってもかわいくて、ずるくて、さびしがりで。綺麗なものは簡単に汚れてしまうけれど、ミカはそうじゃないよね?
「液化するカラフルなゲームセンターで二次元だけのなまえがほしい」
学校に疲れてゲームセンターでよくねむった。耳障りな電子音はわたしをようやく平面化してくれるので居心地がいい。何もかもぼやけて見えた。どこでも宇宙の中心地だと信じていた。
「水銀のかたむくほうへ やさしさは時計仕掛けのはやい逃げ足」
じぶんに正直でありたかった。半分機械の感情だよ、伴走することもできないよ、きみはどこにいっちゃうんだよ、ほんと、ばかみたい。
「ガソリンを浴びあう遊び たのしいね 「故障中」の紙もガソリンまみれ」
さびしいときにはミカと故障ごっこをした。わらって金のジッポにキスをして、危なっかしくておかしくて。たまったガソリンに虹がゆれてた。指でかき混ぜて、泡の数を数えていく。たくさん。たくさん。たくさん。
「(わたしから這いだそうとするぬいぐるみ)就活戦線 武器はピアニカ」
シューカツって響きはすき。ピアニカで吹くのは行進曲じゃなくて、ほらあれだ、トロイメライ。放課後に鳴るような単音でさびしいやつ。のどの奥にへんなものがおしこまれています、くるしいよーくるしーよー、あれ、ミカ?
「「街は可燃のゴミだらけだね」ってとびっきりのショートケーキのようなほほえみ」
すごい笑顔だったね、下り坂アクセル全開、みたいな。秘密を打ち明けるときは小声じゃないといけない。(おまじない。)胸の奥に透明な火をつけられたみたい。(泣きそうになるよ。)
「二進法のびょうきが怖いよ、わらわらと屋上から見るモロイイキモノ」
ゼロ、イチ、ゼロ、イチ、瞬きする間に景色は更新されていきます、不規則にいそがしくながれます、しゃかいつーねんじょー不適格ですー、首に押されたバーコード状の烙印がすこし痛んだ。ここから眺めるにんげんたちは小指の爪ほどのおおきさしかなくて、羽虫みたいにちっぽけでしたー。マル。
「きみもぼくも漂白剤で色褪せてどうしてこんなに散り急ぐ薔薇?」
これから先恋をして誰かと一緒になって少しずつ視力を失ってつまらないおばあさんになってしまっても、ミカ、あなたはずっとそのままでいてくれるだろうか。
「さびしさは剥製の蝶 飾られて、ただ冷たくて、もう息のない」
人形のようなあなたの死骸、息のない唇にそっと触れてわたしはなんだか安心しているよ。ミカ、ミカ、ミカ、ミカ。
「サイダーの気泡のような退屈に沈没船をそっと浮かべて」
平坦な記憶に沈む銀盤の宇宙船を、ちりちり光って砕ける退屈なサイダーに浮かべてみる。機能を失った宇宙船は、またすっと沈みこんでいくんだろう。浮上と沈没をくりかえして、すこしずつあなたの笑顔は忘れてしまう、それでいいのかもしれないね。
「きらきらと光る血ホースで撒いていこう、ゾンビさんたちここまでおいで」
ふと目蓋を開く。ここは夢のなかかも知れない。ゲンジツかもしれない。顔のないゾンビさんたちが追いかけてきますー、ミカはいつもの笑顔でホースで水を撒いて走っていく、置いていかれないようにするのは大変だ。きらきら跳ねる滴は血みたいだね、きっと、瞬間瞬間に蒸発していく蜃気楼のようなラブなんだ。ばいばい、レトロニカ、おもいでのなかで眠りこけた、なつかしい未来たち。