古墳公園を歩く
楽恵

いつもより遠出した散歩の途中
気がつくと僕は
古墳の前にいた
その古墳のことを
僕はそれまでただの自然の丘だと思っていた

『県指定史跡』と書かれた案内板に
黒い鳥が一匹だけ止まっている

古代の英雄が眠る前方後円墳は
周りの木々を綺麗に伐採されて
今ではただの史跡公園になっている

墳丘を取り巻くように
わざとらしく置かれた埴輪のレプリカを横目に
罰当たりかもしれないが
僕は山登りの感覚で墳丘に立つ



墳丘のうえは
思ったより遠くが見渡せて
とても気持ちがよかった
白く枯れた冬の芝生の上で
裸足になり
千五百年くらい前に盛られた土を踏みしめる

レプリカの埴輪たちと目があう
目や口の部分に
穴がぽっかりとあいている
古代の大王を守る
みずらを結った土器の兵士たち
何故だか気まずくなって目を逸らす

僕が立つ墳丘の下に
地下水に湿った石室があって
冷たい石を枕に
大王は永遠の眠りについている

芝生に横になって
耳を澄ます
ながい夢を思う
僕がまだ一度もみたことがない
死者の夢を



思わずノックするように
地面を叩いてみる
さっきよりもっと耳を寄せる
もちろん返事なんて聞こえない
そのままごろんと横になる

その時
僕の身体が突然誰かに揺すられた
正確には
地面の方が動いてる
「あ、地震!」
遠くで小さな女の子が叫んだ
それは震度1くらいの
小さな地震だった

僕は慌てて
大王の眠りを醒まそうとした非礼を
居並ぶ埴輪の兵士たちに謝る



案内板の上にとまっていた
黒い鳥がいつの間にかいなくなっている


真冬の乾いた風が吹く
死者を弔う古代人の哭き声を
聞いた気がした


自由詩 古墳公園を歩く Copyright 楽恵 2009-12-11 00:06:37
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