朝の儀式
窪ワタル

冷え切った校舎の裏
ささくれ立った言い訳をした日
嘘をつくのは単なる処世術ではなく
空気と同じなんだと信じることにした


地球は今この瞬間も律儀に回っている
無数の嘘を繋ぎ止めながら
卸したての朝を連れて

昇ったばかりの陽はいつもながら苦い
顔を洗う 寝起きの顔は特に好きになれない
入念に歯を磨く 
歯並びがいいのは父譲りで
これだけは密かな自慢
おばさんになってから後悔したくないから
メイクは極薄め
目元にビューラーを運ぶときは二の腕が堅くなる
やっとコンタクトに慣れたばかりなのに
髪を梳かすたびに母を恨む

机に向かって予習をする
よい子のレッテルは重い
「わかりません。」
というには歳を取り過ぎているわたし
特にかわいいわけでも
友達が多いわけでもないわたしは
当たり障りのない笑顔と偏差値で武装しなければ
制服は着れない

忘れた頃に水をやっていた鉢植えのサボテンが
まるで待ち侘びられたかのように
初めての花をつけた
離れて暮らす祖母が貰ってくれというので
これも今後のお年玉のため と
仕方がないので置いてやることにしたんだった

わたしはもうどうしていいのかわからなくなった
おもわず舌打ちをしたものの
その小さな黄色い花は
放置しておくにはあまりにきれい過ぎたのだ

こうして朝の儀式がまた一つ増えてしまう




自由詩 朝の儀式 Copyright 窪ワタル 2004-09-20 23:50:52
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