X 29.50
月乃助
赤い屋根のお庭には、
たくさんの死骸が
ごろごろと横たわっていました
胴体を切られた者達が、
七重八重になって、乱雑に
ひしゃげた腕が
その間に差し出されては、
修羅場をいっそう凄惨にしている
ものほしそうな栗鼠とカラスたちの
わずかな姿だけが、弔問の
うごきまわっては、
あとには、雨の葉を打つ
静かさだけが
帳をおろすように
やってきていた
どうしてこんなに
ここは香りがよいのでしょう、
忘れさしてくれる
新鮮な
亡くなったものたちの
芳香は、雨のなかでその強さをまし
いつまでも、いつからも
◆
スーパーマーケットの
29.50ドルは、
ダグラス・ファーのクリスマス・ツリーたち
ひしめくように 並べられています
よろこびをもたらすために 死んでゆくものたち
それを人は、買うのです
千億の木たちが、
大人になりきらずに 殺される必要が
この街では、あるらしい
いいえ、私も買うのですから、
その下に、たくさんのプレゼントをおいて、
飾り付けたりして、ライトで灯りをともしたり、
ありふれた クリスマスを祝うために
殺された木たちを 幼い娼婦を品定めするように
買って行くのです
いくばくかの 金で、
家族のよろこびを手に
できるなら、
◆
雨の中に
身を寄せ合う木たちの 呻き声は
今日は、聞かないことに
しなければ
それができるほどの
器用さと
無感覚さを
誰もが もちあわせ
生きているのですから