仕度
笠原 ちひろ
うすももいろの襦袢の
冬に纏えば
きぬの温さ
衿をくいと抜き
腰ひもをきゅうと締める
そのうえに伊達〆をきゅうと締める
足元に着やすく畳んだきものを
腰から背中とすべらせて
丁寧に肩にのせ
ひと腕ひと腕みぎひだり
袖をとおしたら
ここからが肝要
着丈を決めて裾つぼまりに
ぴっと着つける
スカアトみたいに裾ひろがりでは
決まるものも決まらない
また紐をきゅうと締める
衿元を調えて
また紐をきゅうと締める
伊達〆もきゅうと締める
帯を巻く
しゅるしゅると巻く
ひと巻きごとに
くん、と締める
枕で形を調えて
お太鼓つくるその途中
昨晩用意していたものは
なんだか今日にはそぐわぬようで
帯をだらりにしたままで
帯揚げ帯〆
いちから選ぶ
絞りの飛び柄か
無地の暈しか
季節の柄の友禅染めか
臙脂は派手か
鳩羽は地味か
クリイムいろならおさまるか
箱からとりだしとっかえひっかえ
帯にあてがえば
そのたびに
華やいだり
粋になったりと
がらりと変わる
その妙の
やっと納得いく調和
帯揚げをふわりと絡める
太鼓の大きさを決め
帯〆をきゅうと締める
前うしろ
すがたを検分して
身支度はととのった
畳にすすめる足袋の音
さりさり耳にここちよく
ちろちろ八掛の色こぼれ
襖に手をかけたところで
もういちど鏡をふりかえり
にいと笑って
出かける