Maria
月乃助
うつむきながら
老婆があゆむ
右の手にしたほそい杖
すりきれたコートにつつまれて
冬の濡れた芝の上を
さまようように
あきらめたように
差し出す雑誌に
日本のことがかいてあるのだから、
もっておいでなさい
時事を知りなさい
マリア、
しわがれた手に
ふるえるような
風の ないだ林では、
すべてが許される
あたしは、静けさに
おびえていたのです
あなたの
笑顔は
わずかな光りを
集める
ここは、寒くない
それを教えてくれるためにやってきた
遠くで、黒い犬が駆けています、
ああ、あれも
あなただって
いつかは、ここに来ることなど…
― 足元をごらんなさい
躓かないように
そう、ありがとう
― さて、
雑誌はとっておいてよいのですよ
もう 私は知り尽くしてしまった
それだけ、長く生きてきたし
指のさきが 冷たいのはしょうがない
あなたは、
寒くないようにして、おいでなさい
ここは風がまだ、
あたるのでしょうから、
ゆくときがきたなら
ゆっくりと
歩くのですよ