ピラルクーがゆく
蠍星

水族館が好きだった
おおきな魚が好きだった
わたしはまだちいさくて
背伸びして水槽に額をくっつけた
ガラスは冷たかった
わたしの目を奪う
彼の名前をわたしは知らなかった

ピラルクーがゆく
わたしは彼の背にのって
その夜たしかに空を泳いだ
ふたの開き放しの水槽から
わたしをのせて
彼は夜空に飛び出した

みどり色の
苔むした硬いあたまだ
宝石のようなうろこだ
風は冷たくて
肺にしみ込んだ
彼は涼しいかおをして
星をひとくちに呑んでみせた
ピラルクーがゆく

水族館へ行かなくなった
わたしはおとなになった
彼の名前のほかにも
たくさん知っていることが増えた
どうだろう彼は
今日も水槽ですましているのか
もういちど空を飛ばないか
わたしとともに
星も呑み込むきみののどなら
つまらないあれこれ
呑み込んでくれるだろう
わたしは街をゆく
わたしのとなりを
夢のなかのピラルクーがゆく









自由詩 ピラルクーがゆく Copyright 蠍星 2009-12-01 20:04:42
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