降り来る言葉  XLIV
木立 悟




闇のほつれが夜の樹となり
蒼を高みへ押し上げている
低い音のあつまりに
音のまだらに震え立つもの


冬を割り
冬を負い
夜の泡が
光を目指し


道の角ごとに
またたく亡霊
剥がれ降るもの
四月 四月


無言の胸を昇り降り
常に起爆の中心に居り
さらに光
さらに光の十二月


つまびきや
かたむきや
花に見えない花にそそがれ
生まれながらにつながりうるもの


やさしくうなづくまぶたの上に
いとおしいいとおしいとくちづける棘
おまえがおまえに流す夕焼け
明けることなど知らぬ夕焼け


鉄が鉄にひらく音
星がそのまま星である音
手のひらを手のひらにひろげても
けして手のひらになれぬ音


ふりかえりつづける瞳の内に
見知らぬ昼の宙宇があり
なにかに接するたびにまたたく
八に輪に背に 鬼の光に


ひとりのふりさえ捨てながら
放つ緑をさらに放ち
くぐれぬものさえくぐりきるもの
冬に削がれ 幸に削がれ


先の見えない昼の道
水を巡る水の暗がり
偽りとほんとうのこがねから
全など無いかのように降る話し声


けだものの火に砕かれた手も
畑のなかに消えた片羽も
虹のはじまり虹の終わり
触れることなく在るものを視る


もうずっと渦のもの 渦のもの
光の枝の足跡のもの
ふいに焼かれる朝のもの
目をふさぐ帯に描かれた午後の景


針もなく布もなく
糸を指で伝えている
とどろきは午後
祭のあとに祀られる面


いつかふたたびはじまる日に
あるはずのないその番号を
わたくしにだけ教えてほしい
盲のまま苦みの海をひらいて
底の底に
できるだけ多くの名前を記すため


はじまりはただ似姿でした
腕をひらいて廻るたび
あなたはあなたでなくなってゆく
無数の扉の
最も奥に立つもののように


すぐ前の
すぐ後のよろこびも忘れている
だからもう一度もう一度
うたってほしいと願い かなえられない


あと一夜
あと一夜と狭まり今日になり
壁や傷や香辛料
いつか見たはずの
笑みの行方さえ思い出せずに


銀に塗られた鉄の橋
ほつれは沈みうたいなじみ
かなえられない願いの終わりに
切られ結ばれ降りつもる
切られ結ばれ降りつもる



























自由詩 降り来る言葉  XLIV Copyright 木立 悟 2009-11-30 22:26:49
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