もう一つの黒い月ーメタフォルモーゼ・怒・寂
……とある蛙

鬱蒼とした樹木の間から
黒い月が煌々と光る
青い空が見える。

しかし、決して昼間ではない。
ここで飛ぶ鳥は梟であるし、
地面には野鼠どもが
異様に光る目をこちらに向けている。

自分は森の中にいる。
初めて気づいた俺は
辺りを見回すが蚰蜒など地面の虫けらを
除きさほど不快な生き物はいなかった。

俺の手の爪は指の間にあり、
俺の体は驚くほど軽い。
ジュンプ一閃樹上に駆け登って
駆け降りた。
小動物は俺を避け木から
いっせいに逃げ出した。

いくぶんの頭痛はあったが、
むしろ心地よいくらいだ。
喉の渇いた俺は
森の外れの谷まで疾走し
そのまま谷底まで走り下りた。

谷底で水をがぶ飲みしていると
やはり水を飲みにきていたガゼルと目があった。
ガゼルは脅えるような目付きとなり、
俺が一瞬鳥に視線を動かした瞬間
何頭かのガゼルはは消えた
視界からあっという間に消えて行った。
谷を挟んだ反対側は
広大なサバンナなのだ。

俺の視線に再び視線を合わせた
不幸なガゼルが一頭
その一頭に飛びかかった俺は
ガゼルの首筋におのれの牙を突き立て引き倒し
前足の爪を胴体に食い込ませたまま
腹の減った俺は

食らった
食らった
食らった
鼻先にガゼルの血液をたっぷり塗ったくって
不幸なガゼルの内臓を食らった。

そして
俺はサバンナに目をやり、
広大なサバンナを眺めている。
そのうちに
俺は生まれたダウンタウンの
ダウンタウンの記憶が薄れて行くのを感じた。

薄れゆくダウンタウンの記憶を忘れまいと
俺は吠えた

喉を振り絞って吠えた
青い夜空に向かって

青い夜空に浮かぶ
黒い月に向かって
咆哮した。

吠えた。俺の咆哮だけが
薄明るい奇妙な夜空に響き渡った。



自由詩 もう一つの黒い月ーメタフォルモーゼ・怒・寂 Copyright ……とある蛙 2009-11-27 23:20:40
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