臓腑の風景
ホロウ・シカエルボク




俺の臓腑を見ろ
俺の臓腑を見ろよ
ガラ空きの腹腔から滴り落ちる俺の臓腑
静かな臭いを放ちながら床に降る俺の臓腑
もはや曝す以外に手はない
もはや曝す以外に手はないんだ
見ろ、そして認識するんだ
感情により変形した俺の臓腑の形を
お前の目で然りと認識してくれ
その痛みを
その色味を
その形を
そんな奇形を生むためにどんな心を抱えなければならないのか
賢者の目を以て認識してくれ
ぼたぼたと零れる音がいつまでも聞こえる
俺はあとどのくらい生きていられるのだろうか
首筋に爪を立てているのは浮上しない思いか
俺はあとどのくらい生きていられるのだろう
なぞってみた、指先で、ゆっくりとなぞってみた、ガラ空きの腹腔、ガラ空きの腹腔の中を
こんなにガラ空きなのにどうして零れおちる音は止まないのだろう
肺を引きずり降ろそうとしてるみたいな
この絶対的な重力の正体はいったい何だろう
綺麗な線で描かれたものを綺麗だと思うことが出来ない
俺の心情はとうの昔から壊れているのだ
セメントに打ちつけた頭蓋の方がずっと綺麗だ
少なくともそこにはバランスを失ったなにかが存在しているから
整えられてはならない、少しも整えられてはならないのだ、俺にとって美しさとはきちがいじみた衝動の中にしかあり得ない
殺せ、殺せ、殺せ、もういっそ狂えないなら
感情の腹を裂いて詩情を殺してしまえ
ぼとぼとと、ぼとぼとと、零れおちる音が聞こえる、俺は狂っているのか、俺は狂っているのか?
狂っちゃいないよ、俺は正気だ、だって昔からこうなんだから
お、お、お、俺の腹腔、腹腔から、ぼとぼとという音がまだ
壊れ切った機械を愛せるかい、作動しないガラクタを
美を知ろうとしない心を愛せるかい、この足元の血だまりのことを
晴天の下で雨が降っているみたいだ、俺の足元だけがぼとぼとと濡れている、雨よ、雨よ降れ、なにも洗い流せない雨、ははは、はははは、ただどんよりとした溜まりを作っていくだけの雨
おおお、おおおお、まるで何かを殴りつけているみたいだ、お前は運命が憎いのかい、お前は人生が憎いのかい
お雨が憎んでいるものは他でもない自分自身だって知ってるか
その執拗さはきっと確かに理解しているんだろう
ガラ空きの、ガラ空きの、ガラ空きの腹腔、指でなぞると汚れたガラス瓶みたいだ、腐った水みたいな何かが指先にへばりつく、洗い落とせ、すぐに洗い落とせ、そこから二度と出られなくなるぜ
生命が悲鳴を上げる時は本当に駄目になる時だ、だけど決してそれでおしまいってわけじゃないんだぜ
帰ってこようと思えばどこからだって帰ってこれるんだ、こだまよりも確かに、約束よりも早くに
それがおしまいかどうかなんてその時だけの感覚に違いないんだ
なあ、見えるかい、俺の腹腔、俺のガラ空きの腹腔、俺の生命は駄目になっちまったんだ、だけどそいつはおしまいってわけじゃないんだ
俺の言ってること変かい、俺の言ってることおかしいかい、すでに壊れてしまっている奴にどんなまともさを期待しているって言うんだい、窓の外を俺から零れおちたものたちが泳いで行くのが判るだろう、あれは雲っていうんだぜ
内臓っていうのがしのびなくて俺が名づけた、綺麗だろう、ねえ綺麗だろう、俺から零れおちたものたちが空を流れていく、あの雲を見てくれ、あの雲を見て綺麗だと思っておくれ、そう思ってもらえるんならもう少し見届けたっていい
俺が幸せそうに見えるって?そいつは、多分……










勘違いだぜ





自由詩 臓腑の風景 Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-11-23 22:04:11
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