辿りつく場所
砂木

十一月になり寒い
合羽を着て雨の中 林檎をもぐ
はしごの四段目くらいまであがると
葉につかまり じっとしているトンボがいる
明日は雪の予報で今夜にも降るかもしれない
最後の日なんだ
羽を掴むとバタバタして逃れようとする
今いる所よりももう少し枝の太い
葉の影にそっと置く
トンボはまたそこでじっとしている
そんな事を数回して 
はしごに登り林檎をもぎながら苦笑する
家に連れて帰って暖かい所で飼うでもなく
多少 雨風を避けたとしても死ぬしかない
死に場所なら辿りついた場所で
それでいいじゃないか
自己満足 自己憐憫 お悔やみもしないのに

トンボはやがて林檎の枝から落ち
畑の中で淘汰され土になる
そして林檎の木に吸収され 
私はその林檎を喰らう
牙のような連鎖の中それでも同情するのは

光る羽を持った記憶はないけれど
生まれた時から畑にいるトンボ達に
養われてきたからかもしれない
小さな古いおびただしい死に
ひととき 育まれ癒され みつめあい

どうせ畑で死ぬんだね 
そして林檎になり養い養われ

またね 今年のトンボ達
いつか共に林檎になろう






自由詩 辿りつく場所 Copyright 砂木 2009-11-22 10:25:38
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