夜の魚
さき
あの文字に似ているから
今夜こそ捕まえようと思うんだ
月という船の不安定さをどこまで僕ら
楽しんでいられる?
なじみの香辛料が
食欲をくすぐる街角
窓の光が映る道
孤独という冒険
寒い息の色を感じる
少年は
一人で
空を駆けあがる
もっと大きな世界だと思うの
与えられたものでは足りないと思うの
清浄ってきっと
言葉通りのことじゃない
みつあみをほどいて
裏口から出た
眼下には
ミニチュアの町
少女は
もう
ここには戻らないと
決意した
信じたものって
そうだったのですか
望んだことは
手に入らなくて
でもやっと
手にしたと思ったら
ハラハラと
毀れおちた
何度目かの
過程で
少年と少女は
服を脱ぎ
邪魔で余計な手足を取り払い
やっと
本当に
出会う
「町の空気と
海風の匂いって
実は一つなんだよ」
「君と僕の匂いもね」
「空の境目
海の境目も
実は一つなんだよ」
「って君は
僕に会う前から
知っていた?」
「泳ぐの
私たち」
「何も縛られない永遠って
あらゆる記憶を全部捨てるってこと?」
「人が考え出したことなんて
全部くだらないわ」
「我慢が生み出す快楽なんて
とてもちっぽけ」
「ねえ」
「もっと」
この夜は
誰にも知られない秘密がたくさん
沈んでいる
高層ビルの谷間
光のついていない窓
真っ暗な公園
汚れた路地裏
私たちは
知らずに
動物でいることを
やめていた
そして
この夜に
息を潜めている
冷たい
体を擦り合せても
もう
暖かいなんて感じない
1億年の
暗い
海を
泳ぐ