あいさない
あぐり




ぼくのものじゃない長い髪が浴槽の排水口へ流れた
その後を追うように
ぼくのものじゃない子供が流れていった
だから蛇口を勢いよく捻り
ざあざあといっぱいに水を浴びせ
そうすると子供はまるで死のうとする老婆に語りかけるような声で
おかあさん。
と、ぼくに囁いて流れていく
小さな沈黙をかぶっては
爪を洗おうとしたなら
そこに彼女が入って来て
ぼくを抱き締めた途端に
彼女は彼になるから
ぼくはそれならきみをあいせないよ
彼女は笑って
大丈夫。
ぼくをあいさないきみがすきなの。
そんな彼女の言葉を聞いて
その偶然にも合致した嗜好だけを
愛そうとした真昼に
やっぱり空には月が輝いて
今にも欠けた部分をなんとか取り戻そうとするから
なんでだよ、
失っていられたらそれが愛だよって微笑んで
腕の中の彼女の
長い髪を切る






自由詩 あいさない Copyright あぐり 2009-11-18 23:50:33
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