幻の春
within

僕と君とが引かれあった
その引力は
桜散るほどのちからで

電車の踏み切りで
隔てられた思いは
初恋の思い出

春の訪れを教えてくれた
ひとひらの桜の花びらを
失くしてしまわないように
つかみとったはずなのに
掌のなかで
溶けていった


一人移り住んできたこの町にも
いつしか馴染んでしまって
昔の思い出は
校庭の下で眠っている

ベランダから見える
月から届いた君からのメール
何かを失くしたことに気付いた僕は
返信もせずに
明るい夜に背中を押されて
歩み出た


閑散とした駅のホームから
いるはずのない/あてのない
電車に乗り込む
終点まで行けば
何か見つかるかもしれない

もつれた糸をほぐしながら
切れないように おそるおそる
手繰り寄せる

僕が壊したものは もう跡形もなく
君が捨てたものは 灰になった

この電車が空へ飛び立ち
月へと向かうなら
もしかしたら偶然を手に入れることが
できるかもしれない
そんな幻を見た


自由詩 幻の春 Copyright within 2009-11-18 02:37:10
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