蝌蚪
小川 葉

 
 
父が釣りに連れてってくれた
それから数日後か
数ヵ月後か
数年後なのか
忘れてしまったけれど
近所のおじさんか
同級生か
はたまたいもしない
兄なのか
とんびなのか
カラスなのか
あるいは彼なのか
彼女だったのか
誰なのか
忘れてしまったけれど
雄物川の中流にある
小さな沼に案内してくれた
古川と言って
かつてそこは川だったかのような
そんな名称で
農業用水としても
さぞかし重宝していたようだった
水は田んぼと結ばれていて
その間を
フナでもなく
蛙でもない生き物が
さかんに行き来していた
あれから数日後か
数ヵ月後か
数年後なのか
忘れてしまったけれど
今の僕には手足があって
いつからそうなのかは
知らないけれど
フナにならなかったことだけは
事実のようであった
生き物になっていた
僕はいつだって
その頃を思い出しては
蛙の鳴き声なども
上手に真似ることができた
釣りに連れてってくれた
父も蛙の鳴き声が上手だった
帰るところは
いつもそこにあった
もしフナに生まれていたら
手も足も出ないまま
魚になっていたのかもしれないと
胸鰭のあたりを動かして
父と二人して笑った
 
 


自由詩 蝌蚪 Copyright 小川 葉 2009-11-18 00:32:56
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