パンク(夜がゼリー)
ホロウ・シカエルボク





ぼろぼろこぼれおちた
身体のかけらを眺めているまに
時が時がどんどん流れた
神様、俺は泥人形か
干乾びて崩れるのみか
アーハーハー、アーハー
笑気に聞こえぬ笑い声
やりたいことはそんなことじゃないだろう
明け方に根性が逃げてゆく
アーハーハー、アーハー
机をたたく指先が
いつかぐにゃりと曲がる気がして
怯えた、怯えた、怯えた、怯えた
歯が崩れる夢を見た、歯が崩れる夢を
俺はまだ眠ってもいないのに
心の方から流し過ぎて
身体には
透明な血しか残っていない
お医者さんならなんと言うだろう
せんせい、透過する血液を見たことがあるかい
死なない程度に、いやいっそ死ぬ程度に
ビーカーに溜めて検分しておくれ
お、お、お、採血の幻想
シリンダーがゆるやかに俺を吸い上げる
俺のささやかな喪失、だけど
それは当然の流れとして認知されているんだぜ
椅子に腰をおろしていると
足首を掴まれた気がして
慌てて身を引いた
床から、伸びた手には見覚えがあったよ
いま、ここで
キィボードを叩いているそのものだよ
亡霊の亡と忘却の忘は似て非なる、だけど
完全なる一致など存在しない、この世には
完全なる一致など存在しない
ぼろぼろこぼれおちた身体のかけら
塵とどれだけ違うのかね
パンク・ロックが内耳で膿みたいな夜で
ウーハー、こもり気味のエモーショナル
エモーショナル、だけどレスキューがない
お前の叫びは許容範囲内さ
効果的に選ぶことしかしてこなかったんだろう
判るよ、判るよ
俺にだってそんなことは良く判ってる
長く曲がった月が空でたゆたう
雨が降ったことなんか嘘なんだ
水の匂いを嗅いだ気がするけど
だったらこんなに渇いているはずがない
アーハーハー、アーハー、泥人形には骨なんかないぜ
アーハーハー、俺には骨なんかないんだ
きっと自由に動き過ぎたせいさ
だけどそんなこと罪みたいに話したりしないぜ
遺書は一番笑える言葉でなくっちゃあ
生まれた意味などないってことだ
公園で彷徨ってる幼児の幽霊が
ブランコで耳打ちしてくれたのはそんなこと
その時ははっきり理解出来なかったけれど
いまならよく判るって言ったら変に気にかけてくれるかい
ああ、墨が
セメントの流しの中の
窪んだ排水溝へ流れていくのを見つめているみたいなサウンド、ごごご、ごごごご
GO(行け)って必ずしも威勢のいい言葉なんかじゃない
ごごご、ごごごご
存分にやり過ぎたときのサウンドは
いつでも耳について回るものさ
セメントの流しの中で排水溝へ流れ込んでいく墨を見つめているみたいな
サウンド
サウンドになんか何の意味もない
夜がゼリー
夜がゼリー
夜がゼリー
夜がゼリー
水で戻す前のゼラチンのきらびやかな感じ、気の利かないスパンコールみたいな、ゼリーの記憶、なんて
一体どれだけのヤツに理解出来るだろう
水から上がった時に染色体をひとつ落として来ちまった抜けた種族が
繋いできた、繋いできた、繋いできた、繋いできた生命の、行きつくところに見慣れた顔面、ごきげんよう、新人類、生まれたときから滅びは始まっている、創造と欠落の綱渡り、落ちないでください、落ちないでください、見世物になる価値もないのに
サーカスから猛獣が逃げましたよってニュースを聞くたび
鋭い牙で噛み殺される夢を見てうっとりとした子供時代、ああそいつが官能っていうヤツだってそんなうちから知っていれば
もう少し器用な子になっていろいろなものを背負い込まずに済んだかもしれないのに
あの頃同じクラスに底なし沼って大好きって言ってた女の子がいて
不思議なくらいに気が合ってたな
いつかほんとに底なし沼に連れて行って沈めてあげるつもりだった、転校しちゃってとっても心残り、今でも夢に見る、今でも夢に
あの娘(こ)はにっこり笑いながらまっすぐ沼に沈んでいくんだ
約束って結局快感なんだよね
約束って結局快感なんだ
気持ちよくさせてくれる?
気持ちよくさせてくれる?
裏切りってオナニーみたいなもんだ
水の匂いを嗅いだのに渇いてるみたいな感じ
泣いて
泣いてよ
叶わないからって泣いて、虫みたいに泣いて
いろんなのに哀れんでもらえばいいんじゃないの、ねえもうすぐ年の瀬ですね
もういくつ寝ると馬鹿みたいにどいつもこいつもがおめでとうおめでとうって
ケチをつけたらパンクですか
そんなこといいたいんじゃねえよ




自由詩 パンク(夜がゼリー) Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-11-18 00:24:22
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