ベリーグッドの正体
カンチェルスキス
バスに乗ってたら
13番目のバス停で
ある男が乗ってきて
いちばん前の
広がる窓の席に座った
明るい緑の
Tシャツと
三本ラインの入った
黒のジャージ
靴下の足は
ふかふかのスリッパ
だった
首が肉に埋まって
剃り残したもみあげが
長く続いてる
すわった腹の肉で
Tシャツがゆるく
カーブしてた
そいつは
後ろや
横を急に向いたりした
含み笑いで
バスに揺られてた
楽しいんだろう
貧乏揺すりが続き
ときどき低く
唸ったりした
終点になると
運転手に声をかけられて
夢の時間から覚めた
男は無賃でタラップを降り
ようとした
運転手に呼び止められたが
男は
唸りながら身振りで
ないと答えた
男はしゃべれない
Tシャツの胸と
ジャージの腿に
名前と住所と自宅の
電話番号が記された
布が縫いつけてあった
きつく問われても
唸るだけで
あとは満面の苦笑と
言ってもいい笑い方
運転手のほうを向いて
どうしようもないんだ
というふうに笑った
運転手が
営業所に電話した後
べつの社員がやってきて
男は車でどこかに
連れていかれた
男は学校の授業を脱け出して
バスに乗った
学校の先生と両親が
営業所にやってきて
何度か頭を下げたけど
本人はクレヨンに
見立てた指で
キャベツの絵を
描いていた
あの男
含み笑いで
バスに揺られ
楽しんでた
男
やつはバスに乗って
みたかっただけ
なんだ