午後二時、黒猫は日本国の歴史を知る
緋月 衣瑠香
体が酸素を欲している
消化器官がせわしなく働いている
その上 申し訳なさそうに今日までの出来事を語る彼は
私を夢の世界へ誘おうとしている
この時間の枕は
歴代のあらゆる出来事を行った偉人達が記された紙束
寝心地はお世辞でも良いとは言えない
と言っても今までにこの枕を使ってあちらの世界に行ったことはない
ただ永遠と居場所を探すかのように世界のはじまりを長々と話す彼の声を
右から左へと 左から右へと 受け流す
先ほどまで狂った笑い声を発してしたやつらは
電源を引っこ抜かれたかのように口を閉じた
どうやら偉人達が成し遂げた偉業を書きとるので大変らしい
さらさらという涼やかな音
かつかつと硬い音
二つの音が室内で即興曲を作りだす
この時間内に誰がその頭にかの偉人達の偉業を明確に覚えらるのだろうか
いや 誰一人としていないだろう
もしかしたら 能ある鷹は前日のうちに覚えてきているのかもしれないが
しかし 私はそこまで賢くない
だが このゆったりとした時間に
ぴーちくぱーちく言うほどの馬鹿でもない
ただじっと
目を閉じないように右手を走らせるだけ
髪が揺れる
鮮やかな秋の風だ
こんな日の猫は世界の果てを探しに行くのだ
黒い黒い不吉の象徴となって
窓から見える白い月は眩しかった