失望を抱く
百瀬朝子

シャワーの湯をはじく肉体だけが
あたしの存在証明だなんて思うのは
虚無があたしを支配しているせいだと
決めつけるあたしは果たして醜いか
濡れた髪の毛を顔中に貼り付けて
嘲笑した口元は
誰かのくちづけを欲していて
濡れた唇はシャワーの湯のせいだが
それだけじゃない理由が血が騒ぐ理由が
あたしは果たして愚かだろう

昇る太陽が憎いとか
降る雨が悲しげだとか
通り過ぎれば忘れる一瞬の
どうでもいい感情に
心を揺らしたりしちゃって
傷つきやすいゆえんかもね
って笑っていられるうちは
誰かがそばにいるってことで
つまりそれはそのときばかりは
いつもより少し強くなれるってこと

あたし自身はちっぽけで
ひとりじゃ力を出し切れなくて
誰かがそばにいるときほどそれは
強い実感になるという不確かな確実性が
存在しているようで
青白い肌が火照る

名曲や名作は永遠の価値を手に入れて
誇らしげにしているのは
価値を生み出したものを差し置いて
今を生きる我々であるというある種の失望
不可解なリアルに失望を抱きながら
身近な誰かをいとおしいふりをして
片手で抱くんだ乱暴に
自分自身さえ欺いたまま

真っ逆さまになればいいのに
天も地も果てて
あたしたちの想いは海に溶けて

たとえばあたしが
感情や言葉を捨てたとしても
新しい風が吹く

そしてまた
誰かが詩を詠むのだろう


自由詩 失望を抱く Copyright 百瀬朝子 2009-11-15 19:55:54
notebook Home 戻る