空の下の私風景
月乃助

 成層圏              私風景


そらのひろがりが       【 騒音のやまない
手にあまるこんな日は、      プラタナスの並木
苦しいのがわかっていながら      黒い水道管の敷設
そこにいれば           枯れ葉のアスファルト
自由でいられるとばかり信じていた 渋滞がひきおこす
飛ぶことをやめずにいたのは、   御覧よ
その先にある           信号の黄の
羽にふれるものを         もどかしいこと
手にしたいだけ          教会からCook St. 】

海鳥の目の          【 セールのリンゴは、
赤い環がちいさくすぼまって    一ポンド、69セント
光の屈折が作り出す        スパルタンだって
空色をこばんでみせた       アップル・バターにする
水晶体の網膜の上に        歯の跡をのこす
映っているものさえも信じはしない みずみずしさ 】

成層圏をぬけてしまうのさ   【 だから、この町が
色などかんじなくてすむはず    好きなのです
そこから解放されて        あちこちに
空色という うそを        自転車レーンがある
ななめに切り裂いて        さびしい街を
のぼりつめたおまえがいるのだ   駆け抜ける
窓に区切られた、         秋がおわるなんて
われたその罅の中に        しらずにいた
確かに不透明な誘いがあっても   季節の先までも
空気をきる            見通すことも 
その羽音に耳をすますのだ     できそうで、 】

無明とわらうものたちの   【 神経を抜きましょう
あざけりが           そうしたら、
どんなに響いていようと、    痛みなどなくなります
暗黒とだれもが言う       一時間ほどの手術です
でも、ほんとうは無色の     腐ってしまいますよ
宙空のひろがりに        ほおっておくと、
星座のふりをして        早めに治したほうが
羽をやすめることも       良いでしょう        
できるだろう          よいですね 】

ただ生きることさえも    【 二階建てのバスは、
わずらわされぬ         広告の迷彩模様
無音の星のひろがりのなかで   秋の枯葉に
目をとじて           溶け込もうとしている
眠りにつけばよいだけ      なんてね 】
       

なんの音も届かない     【 ―今週の金曜日ね
その高み、に           雨が降ったら
あたたかな夢をみるがため     迎えにいってあげる
そこでなら、           ディナーは
おまえの体はいま以上に      五時からってことで
軽くなって ひとをうらやます   忘れないようにね
はず               時間にうるさいから 】






自由詩 空の下の私風景 Copyright 月乃助 2009-11-15 12:27:29
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