冬糸
木立 悟






舌に 歯に
左目の下に 右胸に
一本の糸が離れずに居り
時々隠れ 時々そよぐ


蝶のかたちの毒が来て
糸の行方を告げてゆく
うたのように終わりはじまり
忘れた言葉のようにまぶしい


雪のなかを
音は到く
光が
丘を落ちてゆく


森が空へ剥がされ
見えるかけら 見えぬかけらが路を暗くする
水を越える小さな影
新たな水になってゆく影


永く遠い幾つもの巣から
金の腕がゆうるりとのび
すべての天窓に書かれる名の上
雨と蝶を連れてゆく


塀の尽きる先
火としじま
樹の胸 冬の目のはざま
蒼を蒼に解く夕べ


灯の失い都市の底の音
洞の奥の奥の音
夜を擦る夜
こがね降らす夜


朝にも昼にも触れてゆく
萎えることのない虚のかたち
海から曇へあおむけに堕ち
音を遠くへ放ちつづける


縦を縦にあおぎみる
水の路を風はなぞる
そよぐもの またそよぐもの
影のかけら 影のまだらを追ってゆく






















自由詩 冬糸 Copyright 木立 悟 2009-11-15 11:04:55
notebook Home 戻る