Salome
月乃助
悪いけれども
あたしは、好きなものは手に入れるよ
それが許されるのだから
どんな代償を払うことになろうと、
そんなことは知ったことか
――――――― 男の首をほしがるおんなも、
この世にいるのだ
父親とむつみあい
嬌態を人目にさらそうと、
おまえは美しい それが望む道なら
なにも恐れることなど、ないのだ
この世を生き抜くすべを知っている
ただそれだけのこと
道徳?
笑わせるんじゃない
おまえが心にかけるのは、おまえ自身か
おまえが想う者たちの 爪の先ほどの幸せ
おのれの求めるものを望んで何が悪い
つまらぬ常識に時をつぶしたりする
やめろ やめろ
あたしは、だからあいつの首が欲しかっただけ
命を絶ったときこそ
あいつをあたしのものにできるのさ
いや、ちがう ただあいつが憎かっただけ
だから殺してやりたくなった あたしには、
その力が あるのだから
―――――――― 七枚のベールを投げ捨てる
黄泉の国へ いざなわれ
ためらいさえも
ありようもない
この世で勝ち残るとは、そういうことだろう
ひとり部屋の中で真理を捜そうと、なんになる
苦しんでいても仕方がない
外へ出て陽を見つめるのだ
ヨカナンの首がそこに落ちていたなら
ひろいあげ くちづけを交わすだけ
そのときこそ からだをつらぬくほどの
甘い陶酔が やってくるはず
それをやっとおのれの手に入れるのだ
まよいもせぬ
きっと、その首のよこで
嬉々とした
あたしは凶刃を受けるため
ほおけたように立っている
Note:七枚のベール
冥府へ続く七つの門に赴いた時に衣を脱ぎ捨てた女神の話に由来