カーピー フライデイ
竜門勇気


メサに入り込んだまま
針葉樹林は交戦を始めた
戦争が始まったんだ

臆病もんは隠れてろ!
大事なのはてめーだけだろ?
歩兵のウーズ・ウーズ・ドグが叫んだ

手榴弾の爆発はいったい何ヤード離れて聴けば
適正なデシベルにおさまるんだろうな
唇が裂けた
ぬるい血の臭いが面倒な考え事を上塗りする
俺のカーヴィンライフルには土の甘さが染み込んでいる
ロード・メイス少佐の鎖骨からは出血が止まらない
愛用のジッポーに突き刺さったガソリンの芳香が一瞬輝いた
くたばる時は一緒さ
ロード・メイス少佐が呟いたのかジッポーの炎がふぶかれる音なのか
わからない
わかりようもない
投擲弾は雨あられと降るからフルレングスド・フーの掘った塹壕は
スキップ・ジェイムスの人生のようにぼろぼろ形をなくしていく

その中で空気のようなウィスキーを口に含んだレイノルズ・トトエルは
ルビーの山脈の話をする
大きな・・・大きな・・・三つの山は・・・
クラプティンのわき腹が吹き飛んだ
戯れに投げつけた水風船のゴムの切れ端切れ端
・シェリフ・ウィグアの・・・勲章の・・・
黒い血管がずるずると引きずられていく
こんな時にこんな時に甘ちゃんなのはカーピー・トラムだ
M16を持たせててて貰っても撃つのは夕食の雉ぐぐらいだ
・・滑った・・・ハラムをきこしめせ・・・
クラプティンが塹壕の奥へ消えた
まだ奴にはわかっちゃない
ここで連中を取り残残せばその一人が俺たちの家族を殺すかもしれないって事に
タンブリン・ジャスはガタガタ震えて塹壕の底を見つめている
・・・真っ赤な湖・・・けふ越え・・・

戦闘は終わった
つかの間に訪れたのは惨劇の皿洗いだ
カーピー・トラムはタンブリン・ジャスの脊髄から
ガラスかなにかの破片を取り除くのに必死だ
随分と深く突き刺さっていたらしくかれこれ半時はあれやこれやの手を試している
クラプティンのはらわたを処分していると
血と粘液の中から腐れた家族写真が出てきた

カーピーがついに破片を引き抜く
脳漿と白っぽい脳のかけらが写真のかけらに飛び散る
さっきからピクピクとしていたタンブリン・ジャスは一度だけ酷く心地の悪い痙攣の後
ついに眠りについた
カーピーの啜り泣きが聞こえた
哨戒に発つ俺には
一度は引いたはずの塹壕の向こう
オークによく似た痩せた木と得体の知れないシダの向こうからも
啜り泣きは聞こえていた

レイノルズ・トトエルはついにルビーのうたを締めくくった
・・・・まったく・・・貧乏くじばかり・・・


自由詩 カーピー フライデイ Copyright 竜門勇気 2009-11-12 02:13:09
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