「ゆりと兵士」
月乃助
夏のそらばかりが 身をせめる
南風の吠ゆる 島の岬に
母のかたみの 赤い櫛で
髪を梳く
罪を乞うでなく
罰をあがなう 身にもあらず
まばゆく うれしそうに
紺碧色に待つ 海をみつめ
ながら
髪を梳く
いやしき鬼畜をのがれ
穢されない
逝く夏
を 背にして
岬から 鳥の飛ぶ
せいいっぱい つばさを広げ 黒髪をなびかせ
ただ、まっすぐに 落ちていく岩波の
いきどまり
終わりを夢見て
羽ばたく わたしたち
ひとり また ひとり
ひとり… ひとり
…ひとり
蒼海に
むすめたちの宙を舞う姿を
見つめる
くたびれた兵士
もえぎ色のぼろぼろの 戦闘服
見たこともない 瓦礫の森の月夜に
うずくまり
銃と眠る
赤い/竹の/鼈甲の/柘植の
だれも いなくなった
岬 に残った
櫛の
数知れぬ
白ゆりへ 代わり
今なお さきほこる
枯れ去らぬ
可憐な花たち
兵士は知らぬま
ただよう
ゆりの芳香に 目を覚ます、
昨日は、1149人を殺した
今日も続く 殺戮
意思などもたない
たった一人 いつわりの兵士
の仕事
モニターの中で画像の彼が演じる
3D白兵戦 兵士は、
今日のコインをおとす 遊ぶ子達を待っている
惨めさでない 戦場の
恐ろしさでない 虐殺の
痛みでない 銃痕の
悲しみでない 戦没の
快楽と娯楽 の
戦争のために 殺し 続ける 日々
炸裂する
ノイズのゲーム・センター
白兵戦は悲しい兵士、
答えをしらない
彼が 見つづける
終わりなど やってこない
終戦
ゆりの花と
おとめたちの いる岬の
紺碧色の夢