水平線
百瀬朝子

古いあたしが褪せてゆく
散った涙に悔しさを流す
太陽がはがれる
淡い憎しみが滲む頬
ぬぐって、
ぬぐって!
ぬぐってよ!
手の甲を焦がすほど強く
きっと皮膚の再生は追いつかない
きっと心なんてもっと脆い

重力の速さで堕ちてゆく
孤独が今日も昇る
近づけない水平線を追うように
未来への侵入を試みる日々
あたしたちは朝日や夕日を浴びて
頬を染めて
波に馳せて
愛なんか語っちゃって
陳腐な記憶を刻んでく

  遠くに浮かんで見えるあの船には
  きっと数人の船乗りがいて
  あたしのことなんか
  小指の爪くらいにしか
  見えていないんだろう
  泣いたって笑ったって
  きっとわかりゃしないんだ
  隣にいるきみも
  あの遠くの船乗りと同じようにしか
  あたしのことが見えていない
  万が一、あたしの涙だけ
  透明な風のように涙腺を
  吹き抜けているのでなければ
  ね?

近いのに遠かったり
遠いのに近かったり
あるがままにならなかったり
下腹部あたりが張ってきた

あたしは孕んでいる
吐き出せないのは
得体の知れないせいにして
答えのない問いは欺いて
近づけない水平線を追うように
明日への侵入を試みる
海は冷たく深いだろうか


水平線が濃くなる

(ちがう)

あたしが褪せてゆくんだ


自由詩 水平線 Copyright 百瀬朝子 2009-11-10 21:54:12
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