結び目
あ。

樹齢いくつとかわからないけれど
ぼくより長く生きていることは間違いない
その身体のあちこちは皮をはがされ
表面に色の濃淡を作り出している


そんな老木のたくさんある枝のたった一本に
か細く結わえられた糸が垂れていた


糸は強すぎる風に身をゆだね
振り子時計のように
時を刻んでいるかのように
先に縛られた玉虫を大きく揺らしている


この辺りの子どもがいたずらしたのか
いつからここにいるのかは知らない
生きているからさほど日にちは経ってないはずだ


彼を解放したくなったのは
ぼくの中途半端な正義感か自己満足か
うまく説明することは出来ないけれど
この時は深い考えがあったわけじゃないと思う


小さな身体をそっと手のひらに乗せる
腹のほうに結び目は存在しており
糸のわずかなすき間に爪を差し込もうとする


それは思いのほか固く結ばれ
力を入れて引っ張ろうとすると
玉虫の身体がつぶれそうに歪んでしまう


どうして糸を根元から切ろうとしなかったのだろう


もしかしたら誰も彼もが
見えない糸で結わえ付けられているのかもしれない
はさみで切ってくれるのを待つものもいる
身を固められて安堵するものもいる
世の中の仕組みは思っているよりもずっとシンプルだ


彼が何を望んでいたのかぼくは知らない
ただひとつ、目の前の結び目をほどくために
少なくともこの瞬間、そのために生きている


世界は今日も限りなくいとしい


自由詩 結び目 Copyright あ。 2009-11-10 21:04:50
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