あかねいろのひと
恋月 ぴの
ふと目を上げると向かい側には同い年くらいのひと
高尾山にでも登るのかいかにもって雰囲気で
ひと待ち顔でおしゃれなデイパックを開けたり閉めたり
わたしと言えばパン教室のお友達を待っていて
忘れ物しなかったか使い古しのバッグを開けたり閉めたり
へえ、上から下までブランド品なんだ
わたしが学生だった頃
ワンダーホーゲル部御用達とかの重たっ苦しいリュックサックを背負わされ
新宿駅アルプス広場に集まった部員達と零時一分発の夜行に乗り込んだ
おんなを捨てたもの同士で夜通し語り合った
あの頃っておしゃれなんか無縁だったし
それでも早朝の小淵沢駅に降り立ち見上げる甲斐駒ケ岳は神々しくて
こんな青春もありなんだと首に巻いたタオルで額を拭った
着信音鳴ってメール届いたかと思ったら
もうちょっと待って欲しいと顔文字ぺこぺこ謝っていて
お向かいさんはご同伴の女性と朝の挨拶交わしていた
わたしよりちょっと年上のひとなのかな
はきやすそうな色合いのシューズ、楽しそうに弾んでいた
京王線の改札へ向かうおふたりさんを見送りながら
いってらっしゃい、気をつけて
小淵沢駅から乗り込んだディーゼル列車、汽笛を鳴らしコトンと動く