水の遍歴
木立 悟
木漏れ陽や影が
昼の星を見ている
羽は
羽から目をそらす
家の裏の沼には
家が沈んでいる
建つものもなく
枠は増える
翳りが
異なるほうを向いています
今 元に戻りました
でも 正しさとは何か
わかるまでには至りません
空の奥の空
空を秘す空
岩と海と樹に響き
野へ打ち寄せる闇となるもの
二重の雨
二重の笑み
そそぎ そそがれ
離れる光
やわらかな やわらかな爪です
指の内側
指の外側の指のように
見えないかたちを
常につかみつづけている
やわらかさに折れそうな
三日月たちです
青 青と白
塗り重ねながら 変わりゆくもの
標でありながら 導かれるもの
さらに青へ さらに白へ
何もない器に
落ちては光り
響きは消える
雨は 雨にぬるらんでゆく
手のひらは
たくさんの光を見てきました
もう終わりが近いのかもしれません
いえ これからが
はじまりなのでしょう
まだあんなにも
こぼしてばかりいるのですから
夜の青 夜の虹
空の地図を 火とともに折りたたみ
水はひとり
野の闇間をすぎてゆく