水蜜桃
岡村明子

赤ん坊の頬をなぜるように
水蜜桃の皮をむいていく
あなたの指が
汁にまみれて
窓から差し込む光に包まれている
甘い水が
赤ん坊の膚のような
産毛の柔らかい皮をはぐたび
したたる
したたる


私はベッドで熱い息を吐いている
肺がしゅうしゅういう
斜めに見ている
病院の窓枠からでも
今年の夏はずいぶん暑かった
私は乾いて
汗をかかなかった

いま
あなたの指の間からしたたる
水蜜桃のしずくが
生命の水だ
一滴含ませてくれるだけで
私は生き返るのではないかと思う

どんなに
腕から栄養の水を入れたって
山を登ったとき
高原の清水に手足を浸すより
栄養があるとは思えないんだ



自由詩 水蜜桃 Copyright 岡村明子 2004-09-17 21:18:50
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