夢の話
プル式

賎民という事実を隠しながら生活する彼(僕)は、「戦うのは嫌だ」と、入隊から逃げていた。ある日、町中で徴兵部隊に捕まる。徴兵部隊の隊長は「徴兵にならないのは根性が足りないからだ」と、連れてきた賎民を殺せと命令する。そして彼は、自身の身の為に、その賎民を殺してしまい、そのまま入隊をする。
入隊をした彼は、自分のした事をかき消す様に、兵隊として働く。最初は歩兵だった彼も、次第に働きが認められ、狙撃手になる。狙撃手になった彼は戦績を上げ、ついに大尉クラスになる。級の上がった彼の新しい仕事は、賎民を選び、見せしめに殺す仕事だった。
過去の自分の過ちと対峙し続ける日々、自分が実は賎民である事への恐怖、いつばれるとも知れない、誰かが知っているのでは無いかという疑心が心を蝕んでいく。
そんなある日、軍隊の健康診断を受けた彼は、レントゲン写真の中で、自分しか判らない様な小さな異変に気付く。それは「賎民の証」と言われる、胸に小さな出来ものの元だった。それは小さな伝染病で、特に害のある物ではない。しかし、母から子へ、確実に伝染する病で、一緒にくらしている家族しか発症しない『印』なのだ。その兆候を見つけてしまった彼は「ついに隠しきれなくなるかも知れない」と思い悩む。
悩み疲れた彼は、ふと立ち寄った高級劇場で、賎民の給仕の少年と出会う。少年は現状にめげず、希望をその目に持っている。少年は彼の飲むワインを見ながら「良いですね。そのワインにはきっと毒なんて入ってないんでしょう」という。僕は「いや、入っているよ、きっと」とつぶやき、それを飲み干す。少年に、今何がしたいのかを訪ねる。少年は「タケシの物語」が見たいという。そして、それがどんなにすばらしい映画なのかを彼に説明するのだった。そうして何も気にせず少年と話す事は、彼にとって心の休まる時間だった。しかし、そんな二人の前に兵が現れ、二人はあっという間に取り囲まれてしまう。彼の素性がばれたのだ。その場に居た少年も一緒にとらえられる。連行される二人。

連行される輸送車の中、希望失った少年の目が濁っていく。

刑場はまるでビルの屋上の様にコンクリートで覆われ、所々にある鉄線入りの窓と柵、窓のある壁の高さは一階ほどの高さで、閉じた空間に、有刺鉄線の青空だけが広い。自分もここで何人も殺したのだと、自分の中で自分が攻める。
ふと窓があき、昔の戦友が声を掛ける。「まだ時間がある。最後に欲しい物は無いか」しかし、彼は何も思いつかず、ただ「何も」と答えるのが精一杯だった。そして、別の戦友(女)が顔を出し「タケシの物語」を手にれたんだ。見ないか」という。
刑場の中ブラウン管に映し出された『タケシの物語』を並んで見る二人。
次の瞬間、少年の頭が吹き飛び、ブラウン管の半分が血で赤く染まる。彼はそのまま、泣きながら映画を見続けている。


散文(批評随筆小説等) 夢の話 Copyright プル式 2009-11-07 11:13:24
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