俺のフェラーリで
ふくだわらまんじゅうろう

俺のフェラーリをすっとばして
空の向こうまで
行ってみようじゃねえか

このアクセルを底まで踏んだら
いったい何キロ出ると思う?
おまえのそのボディラインに負けない
流線型の風を斬って
高速自動車道なんてケチなこと言わない
俺がいちいちシフトチェンジする度に
ぴくりと震えるおまえの身体を
俺はどこまで愛してやりゃいいんだい?
このリトラクタブルヘッドライトが占う夜の長さを
おまえの粘液だけで慰められるとでも思っているのかい?
タイヤが鳴くような遠心力
このフェラーリも
俺も
おまえも
いつコースアウトしちまってもかまわないのさ
ああ、この道はまるで
おまえのその曲線をなぞっているようだ!
陶酔!
陶酔!陶酔!陶酔!
そろそろ先っちょが湿ってきたかい?
空の向こうまで
明日の仕事なんてサボっちまえって
俺のフェラーリをすっとばして
さあ、音速の恵沢まであと一歩
俺は鮟鱇にでも生まれ変わるのさ
ああ、あの黒い山の稜線は
黒くて黒い山の稜線は
黒くて黒くて黒くて黒い
山の稜線はおまえの
熱く湿ったおまえの稜線の
まさにスピード地獄の蜘蛛の糸
おまわりもひまわりも追いつけない灼熱の空気圧
ああ、この息苦しさはまるで
まるでしかくでおまえの立体の
多面構造を無視し無視した粘膜の鳥居の幾重にも連なる
その連なりの無限性の誘う先のお稲荷さんよ!
商売繁盛! あんたのお陰で
俺はこんなにも多くの消費者を騙しおおせた!
その代償に悪魔から受け取ったこのロケットで!
月まで太陽までブラックホールまで!
おまえの夜の頂点まで!
スピード!スピード!スピード!
スピード×スピード×スピード÷(罪悪感+絶頂感+脂肪肝)=光陰矢のスピード!
学成り難いのさ中退人生ドロッピングアウトオブオブリガード
だけどこうしておまえとふたり
片寄せてシートに沈み込んで振り返る
去年の一昨年の先週の十三年前のクリスマスイブ
ひとりで歩いた山形の駅前の雪の中
提灯ともしつづけるチョウチンアンコウの孤独
俺のフェラーリですっとばして
すべての過去をぶっちぎるつもり
俺はおまえ以外のすべてのおんなどもを滅ぼし尽くして
この林檎を吐き出してすべてを終りにしてしまいたいってわけさ
それがわかってておまえはこの俺のフェラーリに同乗したんだ
世界一美しい尻をそのシートにうずめて!
さあ、これで駄目だったら本物のロケットが必要だ
ラヴェルの悪戯!
泣いているのかい?
涙がひとつぶ、横Gで、俺の
肩にかかって
はじけて
消えた
ああ
こんなふうに俺たちも
消えてしまえたなら
ああ、黒くて黒い山の稜線も
熱くて熱いぬめりの夜も
おまえの中で暴れる俺も
このフェラーリのスピードのひとかけら!
俺のフェラーリをすっとばして!
すっとばしてかっとばして!
おまえの絶頂のその向こうまで!
お釈迦の法悦のそのまた向こうまで!
輪廻の壁をいくつもいくつも飛び越えて!
生ビールを大ジョッキで何杯も何杯もおかわりして!
溺れる俺の勃起を硬くして硬くして硬くして!
おまえの火の海に飛び込む鉄砲の安全装置をはずして!
空の向こうまで!
この空のむこうまで!
朝が!
朝が見えるまで!




自由詩 俺のフェラーリで Copyright ふくだわらまんじゅうろう 2009-11-05 22:49:02
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